歯磨キス
「お前って歯磨き下手だよなぁ。」
それは突然なんの前触れもなく告げられた一言。
口の中の水道水を吐き出して睨み上げると、隣でわしゃわっしゃと歯ブラシを動かしたままのミカゲがだってさ、と続けた。
「歯ふラシのうごかひはたもほーきひし、ひはらもはいひふみ。」
「…磨くか喋るか、どっちかにしろよ。」
「あと磨いてる時間が短い。」
口の中から歯ブラシを抜いて中に詰まった唾を吐き出す。
一度歯ブラシを水洗いすしてミカゲはまた歯を磨きだした。
「ミカゲは磨きすぎ」
「歯っつーのは、あんまり力まずに時間かけて洗うもんなの!ほら、お前もオレの真似してみ?」
胡乱げに見上げるテイトに、ミカゲは水洗い場の脇に置いていた歯ブラシを差し出す。
綺麗な歯を見せて笑うミカゲを見て、それをしぶしぶ受け取るとテイトは再び歯ブラシを口の中に突っ込んだ。
「だからそんな強く握ったら駄目だって…そう、そんな感じで細かく。」
「…お前、結構煩いな。」
「母さんにはもっと煩く言われたんだぜ?鏡で確認してるからちゃんと磨けよー。」
そう言ってわっしゃわしゃと隣で歯磨きを再開したミカゲを横目で見、てテイトは誠に勝手ながらこれが終わったら言う事を聞いた見返りを貰おうと決める。
何が良いだろう。何にしようか。
歯磨きを終えたミカゲが口の中を洗ってうがいを始める。
ほぼ同時にテイトも歯磨きを終わらして同じようにうがいをし、顔を洗おうとしたミカゲの裾を引っ張った。
「なぁ。」
「ん?」
腰を屈ましたまま顔を振り向かせたミカゲに顔を近づけて、すい、と自身の口に人さし指を近づけて。
「ちゃんと磨いたか、確認しなくてもいいのか?」
「…オマエ何子供みたいなこと言ってんの?」
「いいから。」
もう一度裾を引くと、しょうがねーな、とミカゲは苦笑して顔を近づけてきた。
「今回だけだぞー?ホラ口あけな。」
「ん。」
近づいたミカゲの肩に片手を置いて、テイトは素早くミカゲの口に自身の唇を触れさせる。
洗ったばかりの唇は、感触だけで温度はない。
固まったミカゲを見て、悪戯が成功した子供のような視線を送ると、一言だけ言い残して洗い場を出て行った。
曰く、
「嘘に決まってんだろ。そんな子供みたいな事言うかよ。」