ちょこきす。
彼は甘いものは苦手。
そもそも男同士でチョコを送る、なんて大の大人がやることでもないだろ。
でも折角のイベント、何か出来たらいいな。
「はい、コレ。」
そう言って差し出したのはいつもフラウが喫煙している銘柄のタバコ。
テーブルの真ん中で、俺の両手の上で存在感を醸し出しているソレを見てぽかんとしたフラウの顔に、くすりと笑ってしまった。
だってあんまりにも珍しい顔をしてるから。
驚きと困惑と、なにか変なものでも食べたんじゃないかって言い出しそうな表情をしていて、知らないフラウをまた一つ発掘出来てそれだけでもう今日のサプライズは成功した気分になる。
「お前・・タバコ好きじゃなかったんじゃねえか?」
「うん、あんまり好きじゃないね。でもフラウは好きだろ。」
受け取られていないタバコを掌で弄びつつ、テーブルの両端でそんな会話のやり取り。
自分で持って来ていた煙草の、最後の一つをベランダで消化し終えて戻ってきたばかりのフラウがどういう事だとじっとりとした目で俺とタバコを交互に見てくるので、もう一回タバコを差し出して俺は言う。
「ハッピーバレンタイン♪甘いのが苦手なフラウ君にはこちらをプレゼント★」
ウインクして言ってみると、フラウは一瞬目を見開いてあー、と溜息をついた。
ちゃんと説明はしなかったけど、なんとなく趣旨は判ってくれたみたいだ。
「なーる程。でもこれじゃ日用消耗品すぎて有り難味ねえよ。」
「えー、なんだよソレ。最近はタバコも高級嗜好品になってきてるんだから、ちょっとぐらい喜んでよね!」
「嬉しいっちゃ嬉しいんだがな・・。ペン持ってるか?」
呆れたように俺の持つ煙草を指で弾いてきたくせに、嬉しいなら最初にそう言って欲しいな。
頬を膨らませたまま席を立って、低位置に置いていた鞄の中を漁ると一本のサインペンが出てきた。
良くものを無くすことが多い俺に名前を書いておいたらいいんじゃないのかと、弟が笑いながら渡してくれた紫色のサインペン。言った後に鞄の中に突っ込まれてたんだっけ。
戻ってずいと目の前に差し出し持っていることをアピールしたら、少し複雑、というより、嫌そうな顔でそのペンを手に持ったが、すぐに気を取り直したかのようにそれを煙草の箱の上に置いた。
「よし、お前コレに自分の名前書いとけ。」
「え・・・?何で?」
弟と同じように名前を書いておけと言うのだろうか。
でもそれはフラウのものであって、名前を書くなら正確にはフラウが書くべきなんじゃないだろうか。
とりあえずは受け取ったけど書く意味がわからないと眉を潜めていると、面白い悪戯でも思いついたような顔をして立ち上がった。
「ちゃんと書いたら、コレ吸うたびにお前のこと想ってやるよ。」
わしゃり、と頭上で音がしてそれで頭を撫でられていることに気づいた。
すこし乱暴な手が離れて、視界からフラウが居なくなったと同時に玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ちょっと5分程出てくるから、ぼーっとしてないでちゃんと書いとけよ。」
何ソレ訳わからない。なんで?なんでそんな風に言ってくれるの?
ぐるぐる止まらない思考の中、目で追うの先ほどの煙草。
名前を書いておけって言われたけど、そんなに大きく書いちゃ駄目だよね。
そう思って側面に『h』とだけ書いておく。
これできっと大丈夫。先ほどのフラウの言葉が頭の中を駆け回って大爆発を起こしそうだ。
「何固まってんだ。」
「うへあっ!?」
後ろからかけられた声に自分でもちょっと過剰じゃないかってくらい肩を跳ね上げて振り返ると、じっとこちら・・・の持っている煙草を見つめていたフラウが俺の手から煙草を取り上げた。
というか、もう5分経っていたという事実に表には出さないで少しだけ衝撃が走る。
名前書くだけにどれだけ時間かけてるの、俺。
フラウはフラウで、しかめっ面になりながら煙草の箱を顔の高さまで上げて俺が書いた文字を見てる。
「何だコレちっせーな。もっと大きく書いても良かったのに。」
「や、あまり大きいのもどうかと思いまして?」
両手を広げて言ってみるけど、フラウは少しものいいたげな顔をしたままこちらを見つめてくる。
そんな顔されてもこっちだって言いたいことはあるのに、と口を開こうとして手の中に何かが詰まった袋を渡された。
「まあいいかほれ。」
「・・・?なにこれ。チロル?」
「おう、きっちり40個分だ。」
がさりと空けたスーパーの袋の中に、色とり取りの10円チョコが山のように入っていた。
フラウのお陰で40個と知れたそのチョコを一つつまんで持ち上げる。
俺の大好きなミルク味が見た目にも少し多めに入れられているのが判り、見ててくれたんだなあと自然と顔が緩む。
「ハッピーバレンタイン。こんなんで悪いけど。」
「いいよ。有難う。」
首を振る前に触れてきた指が顔が揺れるたびに気持ちよくて、顔を上げたら俺よりもくすぐったそうに笑う顔に、恥ずかしくなって顔を伏せた。
「っでも、それなら回数が合わない。フラウは20本分だけど、俺は40個分だ。」
というか俺、こそ何を言っているのだろうか。
何か喋らないといけないとは思ったけどこんなヒネた事が言いたかった訳じゃない。
なのにフラウは、まるで俺がそんな事言い出すのを判ってたって言いそうに小さく笑うと、俺が持っていたチョコを取り包装を剥がし始めた。
甘いものなんて食べない筈のフラウの行動に首を傾けると、食べろと言わんばかりに指でつまんで差し出してきたので少し考えから大人しく口に運ぶ。
少し噛んで、口内の熱で溶け出すと甘いミルクチョコの味が広がった。
「美味しい。」
「そうか。」
口の中のものを喉の奥にながし終えて、とりあえず感想を述べてみる。
首を傾ける俺に相変わらず笑っているフラウの意図が解らず問いかけようとした所で、急に頭を捕まれ引き寄せられた。
何を、と思うまでもない。
至近距離に感じるフラウの煙草の匂いと唇のそれに袋を持っていた手が強ばる。
直ぐに離れていった口は、離れる前に一度だけ俺の唇を舐めていった。
「俺より多い20個分は・・・もう、言わなくても判るだろ。」
だから後19個は勝手に食うなと、視線をさ迷わせて自分が座っていた位置に戻っていき、俺の頭文字が書かれた煙草を鞄の中に突っ込んだ。やや乱暴気味な動作は、少し恥ずかしいからなんだろう。
といっても俺も、そんな様子を見てられないくらい動揺してしまっているんだけど。
「即興でそんな事思いつくなんて流石です・・・。」
「・・・あんまり上手く進展できねえからって悩んでるときに思いついたっつったら、お前笑うか?」
なんとも言えないこの場を変えたくて発した言葉に、更に反応を返しにくい言葉を言われてもう何も言えなくなる。
耳まで赤くなっているのを自覚して、俺は一人で食べるためのチロルチョコを口にした。
(甘いものが苦手な筈なのに、甘いことができるなんて)
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破瑠様からのリクエストでした。
〜以下私信兼あとがきです〜
ものっすごく遅くなりましたがリクエストありがとうございました!
『フラヒュ/チョコレートで甘』ということでリクエストをいただいてました!ええ!恥かしいです。
こちらを呼んで胃もたれしたらごめんなさい!あと自分で書いていてこう言いたい!
お前等高校生か。
それでは一読ありがとうございました!