お犬様、同伴







 学校へ行く最中にあるペットショップ。
 いつもはゼロがいくつかついたお札をぶら下げた動物ばかりがいるその店頭に、今日はひとつだけ値段の変わりに「貰ってください」と書かれたお犬様が一匹。

 まん丸の黒い瞳の柴犬に、少しだけ後ろ髪を引かれながら歩き出した。



 大学に着くと、いつもの場所にフラウが居た。
 狙ってなのか違うのか、俺が見つけやすいようになのかなんとなくなのか解らないけど、フラウは何時も同じ場所で煙草を吸っている。

 片手を上げる彼に同じ動作で返すと、挨拶もそこそこに先ほどの犬のことを話す。

「あのね、さっきペットショップで拾い犬飼ってくださいって言うの見たんだけど。」
「いきなりなんだ。」
「生まれてからまだあんまりたってないのかな、ちっちゃい柴犬だったんだけどね。」

 小さく設けられた喫煙スペースに入ると、強烈に漂う煙草の匂いに体を包まれる。何度入ってもこれは慣れないなあと、フラウの隣に行こうとすると、向こうから手を上げてそっちに行くから待てと煙草の火を消したので大人しく喫煙スペースから離れた。

「で、その犬がどうした。」

 出てきたフラウに問われて少しだけ声を詰まらせる。俺の思っていることを言ったときの反応がなんとなく判るので言おうか迷ってしまったのだ。
 が、既に一度口に出し始めたことで、それを途中で止めるとフラウは拗ねるのを知っているので、仕方ないと俺は目線を上げる。

「欲しいんだ。」
「・・・は?」

 たっぷり二秒、間をもたせて返ってきたのは呆れたのか何を言われたのかわからないといった疑問系。もうちょっと解かして言った方がいいのか、と俺はフラウの手を引いた。

「すっごく可愛かったんだその犬!もう目がくりくりしててさ。ああいうのも一目惚れなのかなあ、その犬のことがどうしても欲しくなっちゃって。」
「犬の話かよ!」
「今の流れで犬以外に何があるの!?」

 何変な想像してるんだよ!と額めがけてチョップを食らわせるとフラウは顔を顰めながらもすかさず悪いと謝る。まあフラウが変に間違えるのは仕方ないかもしれないけど、ノンケのこの友人にそんな言い方しないしできません。

「兎に角、その犬引き取ろうと思ってるんだけど、フラウはどう思うかなって思って。」

 言っている間中も手を引き続ける俺の肩を叩くと、難しそうな顔でフラウは首を傾ける。目にかかった前髪を払いのける仕草が似合ってるなあ、なんてつい見とれてしまった。

「引き取るっていったって、お前がちゃんと犬の世話できるのかよ?」
「実家に犬いるの知ってるだろ。エリザベスの世話手伝ってたことあるから大丈夫だよきっと。」

 実家に住むポメラニアンのことを思い出して言う。足が校門を出たところで盛大にため息を吐かれ、何が悪いっていうのさとサングラス越しに拗ねて見せると、呆れたようにフラウが言う。

「ほんとに大丈夫かよ、俺はどう考えてもお前が毎日散歩させてやるとは思えねえけど。」
「その時はフラウに頼むから大丈夫!」

 笑って言えば頬を引きつらせててめえと言うけど、基本的にフラウは押し付けたらなんとかしてくれるし、俺が頼んだことはよっぽど理不尽じゃない限り許してくれるんだ。
兎に角一度見てみてよと引っ張ると仕方なさそうについてきてくれた。

「この我侭サングラスめ。第一お前の家ペット飼ってもいいのかよ。」
「あ、それは大丈夫。エリィの事預けられた時に確認してるから。」
「何だエリィって。」
「いちいち呼びにくいからってつけたエリザベスのあだ名。」

 案外あだ名でも反応してくれるものだよ、と笑うとフラウは瞳を細めてそうかといっただけだった。
 ペットショップは大学から大体5分ほどのところにある。フラウを引っ張ったままそこまで行くと先ほどと変わらないままのショーウィンドウに俺は少しだけほっとした。この数分の間で貰われているとは思ってなかったけど、やっぱり少し心配していたらしい。

「この犬か。」

 店の前まで来ると、フラウがひょいと例の犬の前で腰を下げた。
 ガラス窓に手を当てると茶色い毛並みの犬がそこに鼻先をつけてきた。指を舐めようとしているんだろうか。
フラウと子犬が戯れてるっていいなあなんて横からしゃがんで見て、やっぱりこの犬は引き取らせてもらおうと決める。この犬に一目ぼれしたのは理由の一つだけど、もう一つはこの犬がフラウに似てる気がするからであって、この気がするは今確信に変わったからだ。

「ね?可愛いでしょう?」
「おー、なんかお前みたいだなこいつ。」

犬とじゃれあいながらさらりとフラウが言った言葉に、俺の頭の上にはクエスチョンマーク。

「ソレはない。というか、似てるならフラウだろう。」

 何言ってるの、という顔をしていると指先で犬と遊んでいたフラウが俺のほうを見てきた。こちらも俺に負けず劣らずといった顔をしていると、ふいに後ろから笑い声が聞こえてきた。

「二人とも、仲良いんだね。」

 振り向いた先に居たのは、よく同じ講義に出ているラブラドールが居た。講義を完全に無視して着た俺たちとは違うのか、ショルダーバックを右肩から斜めに下げていかにも帰ろうとしているようだ。軽く握った右手を口元につけて、くすくすと笑っている。

 笑うラブラドールに首を傾けると、彼は笑ったまま左手を持ち上げて指を刺す。
 その指の先をたどってみると、お互いの手を握ったままだった俺とフラウに行き着いた。

「学校からずっと、繋いでいたでしょ?なんだか微笑ましかったよ。」

 大きい子供が居るみたいで、そういってラブラドールが笑い続けている間に、俺たちは電光石火の速さで手を放した。というか、見ていたなら止めてよ!







(どちらが犬か、なんて聞くのは野暮というもの)









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 椎名啓様からのリクエストでした。

〜以下私信兼あとがきです〜

遅くなりましたがリクエストありがとうございました!
『フラヒュ/現代パロ/犬を間に挟んだお話』ということでリクエストをいただいていましたが、まったく挟んでいません。更新の遅れとともにリクエストに沿っていないのも併せて申しわけないです・・・!
これで宜しければ貰ってやってください。書き直したほうがいいなら直します。。

ほかにもお読みくださった方々ありがとうございました!