おまけ




白魚にも似た白く細い指先で、先程自らのそれで塞いでいた唇をなぞる。
形の良い厚みのある唇は薄く開かれており、そこからは少し早くなった呼吸が浅く繰り返されていた。

少し視線を変えれば、頬を上気させて少し驚いた顔で自分を見つめる二対の瞳。
少し濡れた琥珀色に自分が映っているのを確認すると、ハクレンは瞳を細めて微かに笑った。

「誘われるな。その顔は。」
「お前何言って、」

全て言い終わる前にもう一度唇を塞ぐ。
一度目では驚いて動けなかったミカゲもさすがに二度目では一瞬目を見開いただけで、すぐに放そうとハクレンの肩を押そうとした。
だがそれよりも先にハクレンがミカゲの両手を掴み、座ったままだった体を浮かせてミカゲを椅子に押し付けるように体重をかけた。

図書室の一室だと、思い出すまであと十秒。











































更におまけの(見る人がいるのかもわからない)テイヒュウ。































「・・・で、大体この時代の中国は神権政治だったわけだけど、」
「神権政治?」
「簡単に言うと宗教での祭主なんかが政治を行ったりする事。」
「何で政治に関係ない宗教の人間が政治をしてたんだ?」
「テイト君。」
「はい何ですかヒュウガ先生。」
「勉強進まないよ?」


 公立図書館にある自習室。偶然開いていた小部屋を貸しきり状態で本を机の上に散乱させ、大きく開いて自分を見る翠の瞳。
 そのまっすぐさに普段なら苦笑いで許していたが、今日はちょっとばかりため息が出る。

「何でだ?」

 ああ、やっぱり聞いてきた。
 ミカゲ君達から離れたのは良くなかったかもと内心で溜息を吐きつつ、俺は学校で教えるときよりも熱心に講義を開始する。

 基本的に仕事は嫌いだけど、自分の好きなことをやっているのは楽しい。教師の道を選んだのも、世界の歴史を知っていくのは楽しかったし、下手に大学教授なんかを目指すよりは、自分の弟とそう変わらない年齢の子相手に教えていくほうが楽しそうだと思ったからだ。だから好きな世界史については一人で知って行くし、そのために学校から自宅までとは真逆の位置にある図書館に行くのも苦ではなかった。
 そんな中で見つけたのは、自らの生徒とその友人達。机を囲んで勉強している様子に関心して、同じく自習室でまったり読書でも決め込もうとしていた俺は一瞬だけ足を止めた。
その一瞬がいけなかった。
 それまで俺から背を向けていたテイト君がくるりとこちらを向き、あっと呟いたかと思うと片手を上げ挨拶をしてきた。それに気づいた二人も顔を上げて目を丸くしていたのだが・・。

 何がどうして、今はテイト君と二人きり。
 一応非公式の形を取っているあの恋人達に気を利かせてみたのだけれど、どうも自分の教え方はテイト君の知的欲求の余計なところまで刺激するらしい。明らかに試験に出てこない、自分が趣味で覚えた内容にまで興味を持ってきている。
 話すことそれ自体は楽しいのだが、これでは彼の試験勉強にはならないと、宗教と政治の関係を一通り話し終えると俺は人差し指で机を叩いた。

「ところで、聞かれるままに話してみたけど、こんなに突っ込んだ話聞いてもテストには出ないよ?」

 そう言って笑いかけた。ちょっと悪戯っぽい視線も付けて。そうしたら多少はテイト君の知的欲求も抑えられるかしらと期待を込めてみたのだけれど、彼自身も判っているみたいで、苦笑を返される。

「うん、そうみたいだな。ミカゲもよくヒュウガ先生は無駄話が多いって言ってたし。」
「あら。そうなんだ?ちょっとショックかも。」

 本来の教え子の言っていたという話に胸元に手をおいてちょっとオーバーリアクション気味に肩を落としてみる。勿論、本当に落ち込んでいるわけじゃない。何しろ昔の教え子から今の子供たちまでみんなが口を揃えてそういうのだから。

「でも俺は好きだよ。先生の話。」

 耳に入った彼の言葉に視線を向けると、いやに熱心に自分を見る翠の双眸と視線が絡まる。
 真直ぐで裏表のない瞳に少しだけ胸が高鳴ると同時に、開かれた桜色の唇。

「声、沢山聞けるし、先生の好きな事教えて貰ってるって事だろ。だから、好きだ。」



〜side:H〜




 本人も無意識だったのだろう俺の頬に添えられた右手をやんわりと引き離し、そうなんだ?なんて首を傾げてみる。
 その言葉に多少イラついたように眉を寄せたけれど、気づかないフリをして俺は次に話す内容を考えた。


(その言葉は、嬉しいけど)

(まだ、その言葉に正しい返事を返す時じゃないのも知ってるんだ)