一番最初の「おめでとう」
携帯の着信履歴、その1ページ。
4つ並んだ番号のうち、必ずどこかにある番号を押して、詳細を表示させる。
消灯を過ぎても携帯の使用は許可されていたはずだから、電話しても問題はないと思う。
ただ、相手がもう寝ている可能性はあるけど。
(眠っていたら、起こしませんように)
今から電話しようとしているのになんて自分勝手な願いだろう。ミカゲは僅かに苦笑して通話ボタンを押した。
長く続くかと思っていたコール音は思いのほか早い段階で切られて、続いて聞こえてきたのは眠る直前だとは思えないほど明瞭な声。
「もしもし…起きてた?」
「ああ・・・どうした?こんな時間に。」
同室の人間に遠慮してだろう、電話口からは低く抑えた囁き声が聞こえてくる。こんな声も出るんだな。それとも出るようになったのかなと思いながら、ミカゲは時計の時間を見る。
「ん・・・ちょっと、言いたい事があって。」
「言いたい事?」
反芻してきた声に、うん、と思わず首を縦に振りながら応える。
その間も目線は時計にむけられて、長針の動きとともに瞳の位置も変わる。
「言いたい事とは、なんだ?」
「うん、あのな・・・。」
ミカゲは途中で濁すように言葉を止める。おそらくハクレンは電話口の向こうで首を傾げているのだろう。時計の長針が「12」の位置を通りすぎるのを確認して、言葉の続きを声に出した。
「誕生日、おめでとう。」
「・・・ありがとう。」
ミカゲの言葉からしばら間があってから、返事が返ってきた。おそらく時計を確認したのだろう。
なんだかくすぐったくなって少しだけ笑うと、向こうでも忍び笑いを漏らしていた。
「こんなに早く、お前から言ってもらえるとはな…誰よりも早く言いたかったというわけか?」
「・・・ばれたか。」
当たり前だ、と囁く声が嬉しくて知らずミカゲの頬は紅く染まっていく。
この場にハクレンが居なかったのは彼らにとっての幸運かもしれない。でなければ彼は己に課している『高校を卒業するまでは、手を出さない』という誓いをあと数ヶ月で守れるところを破ってしまっていただろうから。
「明日、プレゼント持ってく。」
「判った。少し遅くなるかもしれんが…待っててくれ。」
「うん。それじゃ…また、夕方。」
「ああ…ミカゲ?」
「ん?」
引き止めるように呼ばれた声に返事をすると、電話口から優しい声がこぼれる。
「電話、本当に有難う、嬉しかった…おやすみ。」
ちゅ、と、最後に何か音がして、電話は切れた。
後に残されたミカゲは幸せな気持ちになって最後の言葉を頭の中で反芻する。
(・・・でも、最後のちゅって音ってなんだったんだろう…?)
あれ?と思いながら布団の中に潜り込む。
少しだけ緊張していたのだろう一気に気が抜けた所為か急激に眠気が襲ってくる。
頭も廻らなくなって考えることが出来ずに、しょうがないので起きてから考えることにした。
それが電話口でキスされたのだと気づくのは翌日の朝。
叫びながら起きたミカゲを兄妹たちは訝しげに見ていた。