脱ぎ捨てれずに
(どうしろっていうんだ、一体)
体に掛かる重みと、部屋の惨状にため息が尽きない。
アルコール臭の酷い部屋に、散乱されたアルミ缶と一升瓶。
先程ゴミ箱に捨てたのと合わせて8,9,10…。やめよう、多すぎる。
これを飲んだ後にさっきの店であれだけ飲んだのかと思うと呆れを通り越して尊敬すらしてしまう。ただその後に動けなくなってオレを呼ぶのはどうか。
『ふらうー!今ヒマー?』
『どうした?やけに上機嫌じゃねえか。』
『いっぱい飲み過ぎて動けなくなっちゃったから助けてv』
『は?』
実際に会うまではオレを呼び出すための口実だと思っていたが、行ってみると本当に動けなくなっているコイツ・・・そう、コイツだ。オレに前から抱きついて離れないコイツ。
ザルで知られるコイツが何故酔うほど飲んだのか、問い詰めたかったが迎えに来たことに嬉しそうに笑う姿に、少しだけどうでもよくなり酔いが覚めたときにでも聞こうと肩を貸し、かなりの量を飲んでいたのが判る代金を代わりに払い店を出た。
外の冷たい風に当たったお陰でおぼつかないなりになんとか歩けるようになったコイツの手を引っ張り、家まで送ってきた。
家に着くまで、洩れ聞こえた忍び笑いに苦笑を浮かべて。
『なんで笑ってんだ。』
『んー?なんかオレたち恋人同士みたいだなって。』
『・・・オレたちはトモダチだろ。』
『うん、だからなんだか可笑しくて。』
・・・・・・家に着いて、アルコールの匂いに気づいたオレはそのまま上がって、あまりの状況に軽く意識が遠のきかけた。恐らく強いアルコールの匂いに酔いそうになったのもあるのだろうが、このままでは帰れないと片付けていると急に名を呼ばれて抱きつかれた。
ヒトの重みと体温と、部屋以上にきついアルコールの匂い。抱きつかれてるのは大抵慣れていたが、酔ったせいか、いつもと様子が違うように思えて仕方ない。
多分、前から抱き付かれているからだ。いつもは後ろからだから。
「おい、ヒュウガ。お前ちょっと離れろ。」
肩に預けられている頭を軽くたたいた。しまったコイツ今酔ってんだから頭は叩いたらだめだろ。次は背中にしよう。
そんなオレの気遣いは無用に終わり、ヒュウガはゆっくりと頭を上げた。と、思ったら今度は猫か犬のように頬に擦り寄ってくる。・・・何なんだ、一体。
「お・・・。」
「すき。」
ヒュウガは、そう言ってくすくすと笑いだした。頬にすりより、また肩に頭を乗せると今度は鼻先を首筋に当てた。息を吸って、ヒュウガはもう一度甘い声で、その言葉を囁いた。
「だいすきだよ・・・。」
一瞬だけ、眩暈がした。多分この部屋に充満する強いアルコール臭の所為だ。
少しだけ、この部屋の匂い・・・と空気に酔ってしまったんだ。
そんな、言い訳めいた言葉が頭の中で鳴る。酔ってしまったから、ヒュウガの一言に惑わされる。
どくどくと耳元でなる心臓の音がやけに早いのも、ヒュウガの体温が高く感じられるのも、全部酔った所為だ。
でも、だからと言って。
一体どうすればいいのか。
「・・・くそ。オレだって好きだよ。」
規則的な寝息が聞こえて来たのをいいことに、口に出してみたら余計に恥ずかしくなってしまった。
畜生、オレが襲ったりしないからって安心しきっているヒュウガが恨めしい。
(本当に、どうしろっていうんだ)
いっそトモダチなんて仮面、脱ぎ捨ててしまえればいいのに。
(・・・なんでこんなに頭が痛いの・・・?)
(良く覚えとけこのザルが。それが二日酔いっつーもんだ。判ったら二度とやるな。絶対だ。)
(フラウなんか怖・・・ごめんなさい。)