溶かして、混ぜて
















どうせ三人で食べるのだから一緒に作ろう、とは言われても、渡すべき人と同じ台所で同じ日に作るのもどうかと思ってみたのですが。

「いいんじゃないか?ああ、それともミカゲは、オレの作りたてのチョコシフォンを食べたくないと言いたいのか。」

そう言われたら反論なんて出来なくて。
何より自分の作るものも、ハクレンの作るものと同様出来たてが一番おいしく食べれるものである、というのも手伝って、何時もの週末を自分達だけのチョコレートの日に替えてみた。
学校が違うと、バレンタイン当日にすごせる時間が少ないから、同じ学校同士の人が少し羨ましく思える。

ま、幸せを少しだけ先取りしてると思えばしょうがないかな。そんな風に考えて、ミカゲはココット三個分をオーブンに入れた。

「あとは焼きあがったら粉砂糖振って出来上がりっと。」
「その前にこっちを片付けるぞ。」

スタートボタンを押して振り返ると、ハクレンは木べらを持ち上げてこっちを見ている。
袖を捲り上げてエプロンを巻き、甘い匂いを漂わせてキッチンにたたずむ様子は本物のパティシエみたいだ。
自分も相手にそう大差ないことを考えられているとは知らずに、ミカゲは笑って応える。

「判ってるって。あとは溶かして混ぜるだけなんだからそんな怖い顔で見なくても。」
「溶かして混ぜるのところで失敗したらおしまいなんだが。」
「・・・・・・・テイトじゃなんだから。」

家庭一般を不得手とする親友の名を苦笑とともに呟いて、ミカゲは既に刻まれた材料を手に取った。
これから作るのは三人で愉しむ分ではなくその他の友人用、いわゆる義理とか友とか付くチョコなので大量に作る必要があるが、今日は予定の三分の一程度だけ。
テイト達が必要な量の二倍で考えるとそうなる。
残りは二人が帰った後に作ればいいや、と一緒に砕いてもらったナッツを取り分けていると、バターとマシュマロを溶かしているハクレンが一緒に作ればいいのに、と呟く。

「そうすれば、オレやテイトも全種類食べれるのにな。」
「ミルクかビターかホワイトかで味が変わるだけだろ。その位我慢しろよー。」
「お前が作ったというだけで、オレにとっては全て特別だ。」

突然の言葉に頬を紅くしたミカゲは、ハクレンが火から鍋を下ろしたのを見計らってチョコレートをナッツ等と一緒に鍋の中に流し込んだ。ハクレンの顔は極力見ないようにして。
「さらっと恥ずかしいこと言うな。」

何だこいつ本当恥ずかしい奴。
言葉で言わなくても判るのに、ハクレンはよくこういうことを言う。あくまで自然に流れるように。
春のやわらかい風の音と同じ心地よい声で。
首を傾げながら溶け始めたチョコレートを混ぜるハクレンがこちらを見ているのを無視して、不要になった食器たちを流しに放りこんでいく。

「何か変なことを言ったか?ところで、あとでこれと同じくらいの分量を作るとなると、結構な量になるんじゃないのか?」
「あー、うん。一人ずつの分量ちょっと大目にするから。」
「・・・一体何人に渡すつもりなんだ。」

少しだけ低くなった声に反応してミカゲはハクレンを見た。いつもより目線が険しくなっている。
鍋の中の混ざり具合を確かめているハクレンの視線をなぞって、綺麗に混ざり始めた鍋の中を見ながらミカゲは考え込むように腕を組んだ。

「部活の先輩達とー・・・クラスの友達とヒュウガ先生と・・・」
「待て。先生にまで頼まれたのか。」
「うん、オレの弟が甘いものに目が無くてさー、だからチョコレート作るんならオレの弟の分頂戴って言ってたから。」

にっこり笑って合わせた両手を頬の横に添えて。
およそ教師らしくないその人真似をしてみれば、ハクレンが混ぜていた手を止めてさらに瞳を険しくする。

「混ぜ終わったぞ。・・・どんな教師だそれは。」
「オレの担任で世界史の先生。えーっと、型はこれっ・・・と。」
「動かすなよ。」

型に溶けたチョコレートを流し込んで、表面をならす。
大体全体的な厚みを同じにして冷蔵庫に入たら、今度はハクレンの作ったシフォンケーキを型から外しにかかる作業に移る。
それを切って、あとは自分が用意したスフレが出来上がれば、三人で楽しいティータイムに移るという訳だ。

テイトのお菓子食べてるときの幸せそうな顔が早く見たいな、と一旦型をテーブルに置き去りにして冷蔵庫のドアを開けて、鍋を置いたまま黙ってしまったハクレンの様子に眉を顰める。

「ハクレン?どした?」
「・・・別に。」

ハクレンはそのまま自分が作ったシフォンケーキに手をやる。ミカゲは型を冷蔵庫に入れると首を傾げて考える。

なんだか怒ってるような、でもどちらかというとすねている気がする。
もしかして、あんまりにも大勢の人間に友チョコとはいえバレンタインにプレゼントしすぎるからかな。

ナナメ上を向いて人差し指で顎を叩いて、ミカゲはハクレンの横に並んだ。
きちんと冷やしたお陰かケーキは型から簡単にはずれる。

「妬いてる?」
「・・・別に?」


あ、妬いてる。
表情無くシフォンケーキを見つめる目を見てミカゲは目を見張る。
しかも結構妬いている。少しだけだったらはっきり口に出すハクレンがずっと黙ったままなので。ミカゲはどうしようかと軽く唸ってケーキを切り分ける為に包丁を取り出した。

「あのさぁ、ハクレン。」
「何だ。」
「おれがいっとう好きなのは、ハクレンなんだからな?」
「判ってる。」
「じゃぁなんで妬く必要があるんだよ。ってオレもよく妬いてるけど。」

眉を顰めてミカゲは包丁をまだ無表情のままのハクレンの手元に置く、その時オーブンの焼きあがる音が鳴ってミカゲはそちらを見る。今居る場所からオーブンの位置は反対側で躰ごと振り向かないといけないのだが、反動で思わず少し上げた片手を取られて、ミカゲはオーブンに行く前に元の方向を向かざるをえなくなった。

「どう―・・・!」
「仕方ないだろう。」

ハクレンはミカゲの健康的な割に綺麗な中指に口付けを送り、そのまま指先を唇だけで食む。
それを見て固まってしまったミカゲに、にやりと意地の悪い笑顔を向けると、ハクレンはそのまま続けた。

「お前のことだからだ。」
「う゛・・・。」

くすくすと瞳を細くして笑う恋人に、桃色に顔を染めたミカゲは何もいえなくなってしまう。
だから何で、こいつは流れるようにこういう事が出来てしまうんだろう。
多分そういう所に自分は負けてしまったんだけど…。

「っ、スフレ取り出さないとな!」

ぱっと手を離してハクレンから離れて、オーブンから綺麗に焼けたスフレを取り出す。
くそ、いつか見返してやる。
心の中で呟いて、そしてふとハクレンが口付けた中指を見る。
溶かして、混ぜて。

・・・強く残るのは、甘いほう。

オレもあんなふうにさらっと甘い言葉を言えるようになったほうがいいのかしら、そう思いながら、ミカゲは紅茶を入れるべく食器棚の扉に手を掛けた。


















後日談。


「ヒュウガせんせっ!はいコレ弟さんにどうぞっ。」
「ありがとー。コナツもきっと喜ぶよ。」
「どーいたしまして。・・・あ!おはようございますアヤナミ先生!」
「・・・ああ。」
「・・・おはようアヤたん。今日もいい天気ですねあはははは。」
「ヒュウガ、後ろに隠したものは何だ。」
「(ぎくり)何の話ですか俺は何も隠してませんことよ?」
「では何故早口になっているのか説明してもらおうか。さぁ。」
「そんなに迫られたら、俺困っちゃうv…だからそんなに迫らないでって!」
「先生達仲いいですねー。」
「「どこが」!?」
「あっ、そうだ!よかったらアヤナミ先生もどうぞ。余り物になっちゃいますけど。」
「・・・いいのか?」
「?はい。ヒュウガ先生もいります?」
「あー・・・俺はいいよ。欲しくなったら後でコナツから貰うし。」
「判りました。じゃあオレ次の授業があるんでこれで。」
「ん、行ってらっしゃい。」
「遅れるなよ。」
「はい!失礼します。」


「・・・ところでアヤたん、チョコレート食べれたっけ?」
「コレは食べる。」
「さいですか・・・(遠い目)