はなさない
「いい加減お放し下さいませんか?旦那様。」
「・・・断る。」
そう言うと、困ったように眉を寄せて、腕の中でミカゲは私を見上げた。
眠る直前だったのだろう服は普段着ている燕尾服ではなく、麻布で出来た至って簡素な服。
生地が薄いのか体温が布越しに判る。頬を寄せた髪からは、僅かに椿の香りがする。
「暖かいな、お前は。」
「・・・それは、旦那様の体温が低い為にそう感じるのでしょう。」
困惑の混じった声でそう返す彼の左手が私の服を握り締める。
皺になるような強さではない、ほんの少しの間だけ引き止めたいとでも言うような弱さ。
まだ出会ってそれほどではないが、生来の彼ならばこんな引きとめ方はしないだろう。
立場から、今の私達の距離から、そして大切に想うようになった人を再びなくすような目にあいたくない、そんな思いから、彼は強く抱きしめ返すことを拒んでいる。
「・・・もうしばらく、このままで居させなさい。多分そう時間は取らせない。」
「・・・・・、わかり、ました。」
腕の拘束を強めて、半ば無理矢理寄りかかるように仕向ける。
ミカゲはおずおずと自らの頭を私の胸に押し付けて、掠れる様な声を出した。
「…旦那様の仰るとおりに…」
そうして、両腕を使ってしがみついてきた小さな体を、私は何があっても手放すまいと決めたのだ。