それが理由
「アヤナミって本当食べないよな。」
ふいに呟かれた言葉で顔を上げると、目の前で食事を取っていたミカゲが手も動かさずにこちらを見ている。
手に持っている茶碗の中にはミカゲのそれとは半分ほど量の違う暖かい白飯。食べ初めなので互いに元々の量からほぼ変わらない。
「自分でその量出しておいて言うのも変かもしれないけど、もう少し食べる量増やしたほうがいいんじゃない?」
「お前が作るようになるまでは水とビタミン剤でほぼすませていたがな。」
言外に今でも十分食べている事を伝えると、うう、とミカゲが唸った。実際に、昔に比べて今の食事量は明確に増えている。晩などはアルコールのみ摂取、という事も少なくなかったのだ、これ以上増やしてどうするというのか。
しばらく項垂れて唸っていたミカゲは、一つ息をつくと箸を持ち直した。
「そだな。オレも最初は吃驚した。まさかそんな生活している人本当にいるなんて思わなかった!」
「・・・何を怒っている。」
次第に大きくなる声。最後には拗ねたような叫び声に変わっていた。腹に貯めた何かを埋めて隠すように勢いよく食事を取り始めたミカゲに、怒った理由が判らず問いかける。
だが、ミカゲはちらりと私を見るとすぐに自分の食事に目をやり箸を動かした。
「さあな、自分で考えろよアヤナミセンセイ。」
完全に拗ねてしまったらしい。普段会話を混ぜながらゆっくりと食べていく為、黙々と食事にありつくミカゲというのは珍しいが、此方としては些か不満ではある。彼の話を聞くための時間として食事を取っているようなものなのだ。仕方なしに私も食事を取るが、ミカゲの話し声で満たされていない場での食事は、あまりに味気ない。このように味気ないものを食べて意味などあるのだろうか。
いや、意味などあるはずがない。そもそもミカゲが話さないのであれば米も味噌汁も、ましてやこの粉チーズととき卵を絡ませて焼いた肉も食べる必要など無い。私は彼の話を聞くための時間としてこの食事を利用しているのだから。
だが、だからと言って今ここで食事を止めるとミカゲの機嫌を更に損ねることになる。怒っている理由は判らないが自分の食事量については判っていた事がある。
「おい。」
「なんだよ。」
私の呼びかけに食事の手を止めたのを確認して、僅かに両手を広げて自分の皿の上のモノを確認させる。
「この量が、お前が話している時間で私が食べれる量だ。」
言葉を一度を止めてミカゲを見ると、ミカゲは首を傾げて応と頷く。ちらと向けられた視線には言われている意味が判らないと書かれている。
「お前が話す時間が増えれば、この量も比例する。」
「・・・・もっと話せと?」
「そういうことだ。」
私の言葉を聞いて、ミカゲはまた唸りだした。しばらくすると今度は頭を抱えだし更に何かぶつぶつと呟いていたが、それもぴたりと止めると一言だけ呟いた。
「・・・頑張ってみる。」
「話すことを頑張る必要があるのか?」
「オレはお前に健康になってほしいの。」
判ったかと上目遣いで問うてくる目線を思わずそらした。
まっすぐに自分を想い見つめてくる琥珀の瞳は、私には些か眩しすぎるらしい。