その年最後に触れる熱、きみのねつ








「雪か…。」

年の最後の夜、空から落ちてきた『何か』に顔を上げてみれば、砂ほどの小さな白い塊が舞い落ちてくるのが見えた。
私の呟きが聞こえたのか、同じように顔を上げると薄茶色の手袋に覆われた左手を額の上に上げて、空を見上げる。

「ほんとだ。寒いと思ってたけど雪まで降るなんてなー。」
「雨よりは良い。雪ならば濡れる前に払えるからな。」

それに参拝時に傘は邪魔になるといえば、何が楽しいのかミカゲはくすくすと笑った。私達以外の人影はなく、二年参りへの行程は神社に着いたときの騒がしさを考えると酷く静かに思えた。

一言喋る度に冷えた空気が体の奥に入ってくる。変わりに吐き出される白い息で掌を温めてからコートのポケットに手を入れると、ミカゲが少しだけ困った顔をしてこちらを見上げた。

「・・・どうした?」
「何でもない。」

不思議に思って問いかけると、かぶりを振って笑った。ミカゲ自身には自覚はないだろうが、彼はなんでもないと言う時に見せる顔には、時折寂しさが浮かび上がる。
原因は何だと頭をめぐらし、目に留まった手袋に包まれて暖かそうな彼の手。
ミカゲは両腕を自身の後ろへと回し手を組んで、先程の事を忘れたかのように空を見上げて私に話し掛けた。

「年の最後に降るなんて、ちょっとロマンチックだよな。…そんな事もないか?」

少しだけ首を傾け、笑って問いかけてくる顔に先程の寂しさはない。いつのまにか感情を隠すことを知った少年の右手を彼の左手からそっと奪うと、何事かと驚いている目から視線を外し奪った右手を私の左手と絡めて一人分では余裕のあるコートのポケットの中に入れた。

「それは判らんが、こうする言い訳には丁度良い。」
「・・・そだな。あったかくなるし。」

粉雪が舞う街をしばらく歩き続けていると、待ち合わせ場所より少し手前、神社の入り口から少し離れた場所に見つけた人影に眉を顰めた。
人影は2人、そのうち黒のロングコートに身を包む長身の男がこちらに気づいた瞬間、明らかに近所迷惑な声を上げて私達を指差した。

「あーっ!いいないいなーアヤたんそれー。あったかそー。」
「貴様も人の事は言えんだろう。」
「俺のは立ち止まってる時限定だもんv」

そう言うヒュウガの腕の中には2人目の人物、ハクレンがやや諦め顔でいたが、自分を抱きしめている者が羨ましがった原因に気がつくと友人の顔を見て楽しそうに笑った。

「顔が紅いぞ?ミカゲ。」
「…お前はなんでそんなに平気そうなんだよ。」

拗ねた言い様に横を見ると、視線に気づいたミカゲが桃色に染まった頬をさらに色付けて顔を伏せてしまった。
本当は繋ぎたかっただろうにあえてそうしなかったのはこの事もあったからか。俯いたままの頭を撫でていると、ミカゲとさほど変わらない位の高さからの視線に気づき顔をそちらに向ける。

「コイツは外でも中でも所変わらず抱きついてくるからな、もう慣れた。」

本当に慣れているのならば待ち合わせ場所でそうして居れば良かったのではないか、そう言おうとして、こちらを見上げながら話していた少年が非常に珍しそうな目線で私を見ているのに気づいた。
そのことに気づいた私に、更にヒュウガが畳み掛けるかのようにミカゲに話しかける。

「アヤたんはあんまりそういう事しないもんねえ。良かったねミカゲ君。」
「…待ち合わせ場所はまだ先だ。早く行くぞ。」

笑いながら話すヒュウガを無視して促し歩き出すと、慌てて付いてきたミカゲが近づきすぎたのか肩に頭がぶつかる。
慌てて離れようとするミカゲの手を引きこちらに注意を向けて、後ろから付いてきた二人には聞こえないように囁いた。

「これ以上、離れるな。」
「…うん。」

歩く動作で揺れる髪が当たる距離。ミカゲが目尻を下げてこれ以上ない笑顔で頷いたのを見て、私も表情を緩めた。
いつでも陽だまりのように暖かいこの笑顔が、何時までも傍に居てくれれば良いと心から願いながら。